トリビア

一覧ページに戻る

2013年7月9日up

武大が売り歩いている「炊餅」って、どんなもの?

武大(ぶだい)という人物をご存じだろうか? そう、「虎殺し」の異名をとる武松(ぶしょう)のお兄さんである。弟とは対照的な小男で容貌も醜いときて、近所の人にいつも馬鹿にされている情けない人物だが、私は憎めなくて好きである。ちなみに、今回の新作ドラマでは第23話で初登場する。

炊餅を売り歩く武大(中国の水滸伝パーク(水滸影視城)より)


さて、この武大は陽穀県(現在の山東省)の住人で、原作では炊餅(すいへい/中国語ではチュイビン)売りとあり、彼は毎日のようにそれが入った蒸籠(せいろ)を担いで街を練り歩いているのである。寒い中、湯気を立てた蒸籠から取り出される炊餅は、何やらとても美味しそうに見える。こうなると「炊餅って、いったい何だ!?」と気になってくるではないか。

字幕では、日本人に分かりやすいように「饅頭」と書いてあるので、普通に見れば「まんじゅう屋」だと思うはずだ。ただ、よくよく画面を注視していると、それはやや平べったくて、どうも我々が知っている「まんじゅう」とは違うものらしい。

それに、饅頭であれば中国語では「マントウ」という発音になるが、ドラマでは「チュイビン!」(炊餅)と発音しているのである。ちなみに、武大は相当な山東なまりのようで、私にはどうも「トレビア」と言ってるように感じてしまう。妻の潘金蓮は、ちゃんと「チュイビン」と発音しているように聞こえる。

まず、炊餅と饅頭との違いを記そう。ご存じの通り、饅頭は小麦粉の生地で作ったもので、日本では肉まん、あんまんなどの「中華まん」として定番になっている。

上海の町角で売られていた饅頭(マントウ)。1個2元(30円ぐらい)で中に具は入ってない。武大の売り物はこれではない。筆者撮影


ただし、中国では中に具を包んでいるものを包子(パオズ)と呼び、中に具のないものを饅頭(マントウ)と呼んで区別する。生地に渦巻き状の模様が入ったものもあり、それは花巻(ホアジュアン)とも言われ、日本でも稀に見かける。

では、炊餅(チュイビン)とは何なのか。その正体は書いて字の如しで、米粉や餅米で作った団子を平らに延ばして炊いた(蒸かした)物のようだ。これを焼いたものが焼餅(シャオビン)で、日本でも祭りの屋台などで売られていることがあり、こちらのほうに馴染みがあるという人が多そうだ。表面にゴマがふってあり、タレをつけたり、焼き肉などを挟んで食べることもある。

上海の町角で食した焼餅。これも2元ぐらい。武大の売り物はこういうたぐいのもの。素朴な味で旨かった。筆者撮影


ただし、中国では米粉でなく小麦粉で作ったものも「餅」と称されることがあり、さほど明確な区別はないようだ。これらは主食としてはもちろん、小さなサイズにした軽食(点心)として食べられるものも多く、小龍包(ショウロンポウ)、蒸し餃子、ゴマ団子もそのひとつである。

ところで、饅頭の発祥といえば「三国志」の中心人物である諸葛亮(孔明)が、南蛮征伐の帰りに編み出したという伝説がある。当時、川の氾濫を沈めるために生きた人間の首を切り落としてお供えものにするという風習があり、それを改めさせようと小麦粉を練った生地に羊や豚の肉を詰め、それを人間の頭に見立ててお供えものにしたという。

これがどこまで本当の話かはわからないが、紀元前6世紀の遺跡から餃子の化石のようなものも見つかっており、少なくとも中国では相当な昔から饅頭のたぐいが食べられていたのは間違いない。

文・上永哲矢〈哲舟〉=歴史コラムニスト