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2013年5月24日

【キネマ旬報●特別企画記事】構想10年、総製作費55億円 中国TVドラマ史上最大級の超大作『水滸伝』日本上陸!

「レッドクリフ」の大ヒットで、改めて注目を集めた『三国志演義』。そのTVドラマ版『三国志 Three Kingdoms』が2010年にDVDリリースされ、壮大なドラマ、圧倒されるアクションシーンに驚かされたのは記憶に新しいところだ。その『三国志 Three Kingdoms』をさらに上回る史劇スペクタクル『水滸伝』が今夏、日本に上陸した。

『三国志演義』と並び称される『水滸伝』は本家、中国・香港では何度もTVドラマ化、映画化されているが、なかには黒沢年男、丹波哲郎が出演した香港映画(72年)や、榎本健一主演の日本映画(43年)、中村敦夫主演のTVドラマ(73年)などもあり、日本でも馴染み深い題材のひとつ。小説や漫画、ゲームで慣れ親しんだ世代も多いことだろう。その決定版というべき、このTVドラマ版は構想10年、総製作費55億円をかけた、中国いやアジアドラマ史上最大のエンタテインメント作品となった。

数世紀にわたり、人びとを魅了し続ける原作の魅力から、本作製作のドキュメント、そして本作の見どころを紹介。原作、史劇ファンの垣根を越えるその歴史スペクタクルの至宝を指南する。

原作『水滸伝』指南 まさに任侠世界!? 時代を先取りしたヒューマン・ネットワーク

文=岡崎由美(早稲田大学学術院教授)

原作の魅力

中国には「若くして『水滸』を読まず、老いて『三国』を読まず」という言い回しがある。血の気の多い若者が『水滸伝』を読むと、既成の権威やルールに反抗するようになり、いい歳の大人が『三国志』を読むと、権謀術数を弄して権力闘争に走るから、読むべきではない、ということらしい。『三国志』はさておき、百八人もの豪傑が梁山泊に立てこもり、世直しの旗を立ててお上に楯突く『水滸伝』は、明・清の朝廷からしばしば発禁処分とされた。義賊と取りつくろったところで、所詮やっていることは盗賊だろう、けしからん、というわけで、王朝時代の発禁書の代表格である。

確かに、『水滸伝』に描かれるバイオレンスな行為そのものを現代の法治国家に持ちこんでも、テロリスト集団になってしまうけれども、『水滸伝』が現在に至るまで民衆に親しまれているのは、やはり活劇の背後にある民衆的正義感、強きをくじき弱きを助くる任俠の痛快さであろう。

実は、『水滸伝』の内容が反権力のレジスタンスか、アウトローの暴動かというたぐいの議論は以前から中国に根強くあり、いまだに論争が続いている。しかし、そもそも虚構の登場人物たちに対して、ここでその行為の正否を云々しても、現代のわたしたちがこの物語を楽しむ足しにはなりそうにない。そこで、別の角度から『水滸伝』の人間模様を眺めてみたい。

社会の縮図

『水滸伝』は、豪傑たちの物語ではあるけれども、彼らの出身を見てみると、もと軍人が多いのは当然として、下っ端役人、地主、大店の旦那、鍛冶屋に銀細工師、船大工、船頭に荷車引き、漁師、博労、僧侶に道士、居酒屋の主人、旅商人、さらには寺子屋の師匠や医者、書家、芸人までいる。博徒やこそ泥もいる。これはまさしく社会の縮図だろう。彼らがそれぞれの持ち前を活かして、梁山泊軍をバックアップしている。船大工が戦艦をつくり、鍛冶屋が武器を鍛え、こそ泥や芸人がスパイになり、居酒屋稼業は情報収集を行い、書家が公文書偽造を担当する。寺子屋の師匠ことインテリの呉用は軍師である。また、浪子燕青に至っては、腕が立つうえに二枚目、しかも各地の方言を自在にあやつる特技もある。むろん、戦いの前面に立つ豪傑たちも、得意技やら独自の武器があり、それぞれのキャラクターの個性ができあがっている。梁山泊とは、様々なヒューマン・リソースの活用とコラボで成り立っているのである。個性あふれるキャラの任務分担と協力といえば、グループ・ミッションものの王道でもあろう。

なお、彼らが梁山泊入りすることになる経緯にも、官僚の贈収賄だの上司の無理難題だの妾の不倫だの冤罪だの因業な高利貸とのトラブルだの、これまた生々しい社会の縮図がある。そうした世話物的ストーリーがチャンバラの間に入り込むことによって、物語に起伏が生じ、人間ドラマの血肉が通っているといえるだろう。

江湖のネットワーク

こうした『水滸伝』の世界を端的に言い表しているキーワードは、「江湖」である。江湖とは、広義では広い世の中、庶民の社会を指すが、『水滸伝』では特に任俠を看板にする男伊達の世界がクローズアップされる。お上の干渉など眼中にないが、その代わり地位も身分もなく、またそんな肩書は通用しない弱肉強食の世界である。ただし、孤独な一匹狼かと言えば、信頼関係のネットワークが極めて強固な世界でもある。例えば、宋江はどこへ行っても二つ名を名乗れば、「おお、あなたが江湖で名高い及時雨の宋江さんですか。ぜひご昵懇に」と大歓迎。こういう信頼を得た者こそ、「江湖の好漢」と呼ばれる。『水滸伝』の豪傑たちは、「江湖の好漢」と呼ばれることを誇りに思い、「江湖の好漢」と交友することを望む。お互いの自立と誇りを前提とした、甘ったるくないつきあいだ。

『水滸伝』の前半は、まさにこの好漢一人一人の顔見せと交友の広がりを語る。まず一人の好漢が登場し、旅の途中で別の好漢と知り合って、「おお、あなたが江湖で噂の」と意気投合し、そこで悪人退治の話になる。一人ずつのエピソードでたっぷり好漢の人物像が楽しめる構成だ。そして二人目の好漢は、また別の好漢と知り合い……と友達の友達は友達のネットワークが広がっていく。これはピンチのときに、思いがけない助っ人が現れる、という伏線にもなっている。世の中捨てたものでもない。

ところで、この宋代の人的ネットワークから現代に目を向けると、中国のネットにその名も「微博江湖」というツイッター・サイトがあった。今や江湖はソーシャル・ネットワークにその場を移したらしい。江湖の好漢ならぬネット・ユーザーが、地域や肩書や年齢を超えて、二つ名(ハンドルネーム)や本名で知り合い、時には人的資源の交流から、新たなビジネス・チャンスやカルチャーも創出される。『水滸伝』のヒューマン・ネットワーク、案外時代を先取りしているかもしれない。

『水滸伝』製作ドキュメント スタッフが語るその舞台裏 史劇スペクタクルはこうして作られた

文=岡大(編集&ライター)

ドキュメント

中国では現代劇を撮るのが難しい。「刑事ものを作ろうと思ったら〝公安が撃たれてはいけない〟〝公安は汚職をしない〟と言われ、銃撃戦を撮ろうとしたら〝中国の市街地で銃撃戦は起きない〟と言われ、同じ女性を愛した兄弟を描こうと思ったら〝一人っ子だから兄弟はいない〟と言われ…」。これは香港や中国でも活躍する日本のアクション監督、谷垣健治氏から聞いた話だ。現代劇は厳しい検閲を受けるから、時代劇が多くなる。しかも、中国には優れた時代小説が存在し、映像化されるたびに大ヒットしてきた土壌がある。『水滸伝』が再ドラマ化されたのは、必然と言えるだろう。

『水滸伝』は、『三国志演義』『西遊記』と共に〝中国の三大名著〟に数えられる(『紅楼夢』を加えて四大名著、『金瓶梅』を加えて四大奇書と呼ばれることも)。どの作品もたびたび映像化されているが、作り手の世代交代、撮影技術の進化などがあり、近年特に盛んに再映像化を果たしている。日本にも上陸した全95話、総製作費25億円の大作ドラマ『三国志 Three Kingdoms』はまだ記憶に新しいだろうが、実はこのドラマの存在が『水滸伝』にも大きな影響を与えたと、プロデューサーの王岗は語る。

「『三国志 Three Kingdoms』は上手に撮られた作品で、大きな成功を収めました。日本でも放映されたそうですね。ただ、私たちはあの作品の建築物のほとんどがCGであることを非常に残念に思いました。建築も重要な要素で、名作の一部だと思うからです。そこで、本物の建物の中で『水滸伝』を撮りたいという話になったのです」

建築費用は、なんと約40億円! 1日5000人の作業員で、約1年半をかけて、東京ドーム6.5個分の広さを誇る〝梁山泊〟が完成した(現在はテーマパークとして人気を集めている)。ドラマの製作費も加えると、総製作費は55億円。『三国志 Three Kingdoms』の2倍以上というビッグバジェットとなった。

「資金集めは簡単でした。〝水滸伝〟という3文字を出せば、中国人なら誰もが参加したいと言います。それは政府も含めてです。『水滸伝』は誰でも知っている物語ですから、政府も口出しすることはなく、もっぱら資金を提供してくれる役でした」

中国の特殊なドラマ制作事情も、資金調達を簡単にしている要因のひとつだ。日本ではテレビ局がドラマを作るが、中国では制作会社が作り、それをテレビ局が買う仕組みになっている。しかも最大4つのテレビ局に売ることができ、『水滸伝』のような人気コンテンツは、当然競うように高額で購入される。王プロデューサーは、企画当初からテレビ局を巻き込む作戦に出たと言う。

「全国のテレビ局の人間を集めて企画会議を行いました。理由は、テレビ局が市場のニーズを一番把握しているからです。実は、監督もテレビ局の人たちに決めてもらいました。候補の監督たちにそれぞれ点数をつけてもらい、その中で一番点数が高かったジュ・ジャオリァンに監督をお願いしたんです」

ジュ・ジャオリァンは香港出身。アンディ・ラウ主演の『神雕侠侶』などのドラマを手がけた後、台湾に渡って活躍し、90年代前半に中国大陸へ進出。フー・ジュン主演の『天龍八部』などのヒット番組を生み出してきた。ジュ監督はドラマ『水滸伝』についてこう語る。

「私は現代劇も作ってきましたが、やはり時代劇の方が中国では人気があります。『水滸伝』が題材なら、なおさらです。とても有名な原作なのでプレッシャーは感じましたが。本土の人たちと私のような香港人では、『水滸伝』の理解や解釈も若干異なると思うんです。そのおかげで今回の『水滸伝』が新しいものに見えて、高視聴率につながったのではないかと思います」

宋江、林冲ら108人の好漢をはじめ、約500人のキャラクターが登場する『水滸伝』。ドラマ班2班とアクション班の合計3班体制で、スタッフの数も300人にのぼり、エキストラも1日平均100人、最大で2000人を集めたこともある。

「あまりにも人が多くて調整するのが大変でした。6つの省にまたがって撮影したので、ある省で撮影した後、何時間もかけて別の省まで何百人も移動する、そんな過酷な日々でした。特に、大きなアクションシーンではエキストラも集めますから、衣裳管理だけでも一苦労です。しかし、それでもCGで人を増やすのではなく、本物の人間で撮りたかったのです。アクション自体も、人間のできる動きでリアルなアクションを作るように心がけました」

激しいアクションをこなすために2カ月間トレーニングをしたと語るのは林冲役のフー・ドン。108人の中でも特に高い人気を誇る林冲を演じるにあたり、様々な資料や文献を読んだ彼は『水滸伝』が中国だけでなく日本でも長く愛されてきたことを知ったと言う。

「日本では江戸時代の頃から翻訳されていると文献で読みました。日本も中国も文化的に似ているところがありますし、歴史ロマンが好きなところも同じなんでしょうね。このドラマで、現代の人も『水滸伝』を好きになってほしいです」

「水滸伝」作品評 感情移入がとまらない…108人の好漢が一堂に

文=浦川留(映画ライター)

作品評

オーソドックスな史劇から宮廷もの、カンフーもの、武俠ドラマ、タイムスリップ系まで多種多様、シリアスなのもあればコメディもありの中国時代劇。そんな激戦区の中、2011年に話題をさらったドラマが『水滸伝』(全86話)である。前年のヒット作『三国志 Three Kingdoms』(全95話)の25億円をはるかにしのぐ55億円の製作費を投じ、中国ならではの力ワザを見せつけた大スケールの歴史スペクタクルだ。

周知のとおり原作の『水滸伝』は『三国志演義』と並び称される中国古典文学の金字塔だが、テイストは『三国志』とずいぶん違う。「替天行道(天に替わって道を行う)」をスローガンに百八人の好漢が結集! という万人のロマンをかきたてる設定、アウトロー側と権力者側のはっきりした対立構造、キャラの立ちまくった登場人物のオンパレード、時として意表を突く奇抜な展開も、重厚な歴史劇というよりむしろ血わき肉おどる武俠ドラマに近い。それだけに一層、仲間たちの熱い絆にグッとしびれ、悪役連中の卑劣さにはらわたが煮えくりかえり、感情移入が止まらなくなる。

長大かつ波瀾万丈なストーリーは、忠義、孝心、勧善懲悪、男女の機微などさまざまなモチーフやテーマを含むが、一番のキーワードは〝兄弟〟であろう。ドラマの英語タイトルが“All Men Are Brothers” なら主題歌のタイトルも〈兄弟無数〉。劇中では、ついさっきまで激闘を繰り広げていた者同士が互いに認め合って〝兄弟〟になるシーンが続出。ジョン・ウーの「男たちの挽歌」に代表される香港ノワールや、任俠映画のルーツを見る思いがする。

本作は〝完全実写化〟のうたい文句にいつわりなく、女性も含めて百八人もの〝兄弟〟をもれなくキャスト、見せ場の多い少ないはあるにせよ全員に出番を与えているのがすごい。演じているのもトップスターや人気アイドルをはじめホンモノの武術家や格闘家まで多士済々。近年の中国ドラマ、とくにこうしたアクション大作は香港や台湾のスターが主演クラスで参加するケースが増えている中、梁山泊のヒーローたちをみな中国の俳優が演じている点も興味深い。

〝兄弟〟たちのリーダーとなる宋江は、行く先々で「あの有名な…!」と並みいる好漢が拱手で迎える江湖のアイドルだが、人が良すぎて優柔不断なところがしばしば『三国志』の劉備に比せられ、好き嫌いが分かれるキャラクターだ。この主人公をどこまで魅力的に描けるかがドラマの成功を左右するといっても過言ではなく、それをクリアしてみせたのが、中国でトップ人気を誇る演技派スター、チャン・ハンユーである。

チャン・ハンユー自身、当初は宋江を演じることにためらいがあったらしい。しかも撮影が始まった時点でまだ役どころが確定せず、「宋江か林冲、もしかすると西門慶を演じるかも」などとインタビューに答えている。いくらなんでも西門慶はジョークだと思うが(西門慶がどんなキャラかご存じない方はとりあえず検索してみてください)、結果的に彼は一人の真摯な人間、理想と現実のジレンマに悩みつつ信念を貫こうとする宋江像をくっきりと浮かび上がらせ、ドラマの終盤は号泣必至。今後、宋江を演じる俳優はそのつどチャン・ハンユーと比較されることになるだろう。

さて、某国民的女性アイドルグループふうにいうならば、宋江は梁山泊108の〝絶対センター〟である。では、彼の周りを固める、いわゆる〝神セブン〟的な準主役級キャラは誰か。梁山泊内の序列と一般人気とはまた別なのだが、本作でクローズアップされている面々は林冲、呉用、魯智深、武松、李逵、燕青、楊志。また、柴進や公孫勝、女傑の筆頭・扈三娘をランクインさせたいファンもいるだろう。

とりわけ、悲運のヒーロー林冲、愛すべきトラブルメーカーの魯智深と李逵、飲めば飲むほど強くなる武松のインパクトは強烈で、豪快なアクションシーンも数多く担っている。彼らはみな「豹子頭(林冲)」「黒旋風(李逵)」「青面獣(楊志)」のように個々の特徴を示す通り名を持ち、宋江と同様、「あの有名な!」と初対面の相手を喜ばせる(しばしばビビらせる)のがカッコいい。

梁山泊軍以外では、宿敵の高俅がなんといっても一番のキーパーソンだ。演じるレイ・チーホンはかつて「男たちの挽歌」の悪役でブレイクした香港映画界のベテランで、巨悪ではない姑息な小物系が相変わらず似合いすぎ、高俅みたいなつまらない男のせいで人生をめちゃくちゃにされた林冲への同情を何倍増しにもしてくれる。ほかにも、ここでは紹介しきれないが敵味方合わせて印象的なキャラが大勢登場し、最初から最後まで飽きさせない。

日本では除夜の鐘の数、煩悩の数として知られる百八は、『水滸伝』においては封印を解かれた魔星の数である。負の意味合いを持つ数字なのだろうか、フィクションといえども『水滸伝』は正義が悪を滅ぼしてめでたく終わりとはなってくれない。だが、それこそが何世紀も読み継がれてきた名作の深さでもある。百八人が一堂に会するまでの前半の期待感と高揚感、彼らの前途に壁がたちはだかっていく後半のリアリティと切なさを、長篇ドラマならではの時間軸に沿ってじっくりと味わっていただきたい。

『水滸伝』
2011年・中国・全86話(各話約45分)
●監督/ジュ・ジャオリァン 脚本/ウェン・ハオジェ アクション監督/グォ・ジェンヨン 音楽/シエ・ジーヨン
●出演/チャン・ハンユー、フー・ドン、リー・ゾンハン、イェン・クァン
●『水滸伝 DVD-SET1』は6月5日リリース、1万8900円(税込)/6枚組(全12話収録)、以降毎月順次リリース(全7SET) 同日よりDVD(Vol.1〜10/各巻2話収録)レンタルスタート、以降毎月順次リリース
●発売・販売/ジェネオン・ユニバーサル・エンターテイメント

©2012 水滸伝

『劇場版 水滸伝』
※主要人物に焦点を絞り、102分にまとめた劇場版が5月25日よりユナイテッド・シネマ豊洲にて公開

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