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2013年11月18日

日本唯一の布袋人形劇演者、チャン・チンホイさんに聞く、水滸伝の面白さ

「打虎武松」を演じる布袋人形

横浜中華街、関帝廟のすぐ近くにある中国茶レストラン「悟空茶荘」。その2階で布袋戯(ブーダイシィ)の上演が行なわれていると聞いて、さっそく行ってみた。布袋戯とは台湾の伝統芸のことで、日本では「ほていぎ」とも呼ぶ。布製の人形を使ったミニ人形劇だ。

2階フロア内の一角に置かれた木製の舞台で、さっそく上演が始まった。はじめに道化師の扮装をした老師の人形による挨拶と前口上があり、音楽の伴奏とともに中国獅子舞、2人の文官風の人形による立ち回りなど次々と新たな人形が登場。

悟空茶荘2階で演じられる布袋人形

小さくて可愛らしい指人形、そのリズミカルな動きは眺めているだけで楽しい。人形に表情はないが、泣いたり怒ったり…見ていると表情もその時々に応じて変わるように見えるから不思議だ。クライマックスは皿まわし。人形が棒を使って見事に皿を回すと会場内からは拍手が沸き起こり、終演を迎えた。

この人形たちを自由自在に、一人で操演しているのは、布袋人形劇団「著微」(ちょび)団長のチャン・チンホイさんだ。日本で唯一といえる布袋戯の操演師であり、また京劇役者でもある。「チャン・チンホイ」は芸名で、実は福岡県出身の純粋な日本人。小学生のときにテレビで見た京劇の面白さに惹かれ、日本の喜劇にも夢中になり芸の道を志したという。

「著微」団長、チャン・チンホイさん

20歳の時に北京に留学、京劇を学んで以来20年、中国・台湾・日本をまたにかけ活躍。そのなかで出会った布袋戯の魅力にはまり、台湾で修行した後、2009年から日本でその面白さを広めるための活動をしている。

「むかし、台湾の日本統治時代には水戸黄門、鞍馬天狗などの日本ものの指人形や布袋戯も作られたことがあったようです。初心者には少し分かりづらい所もある京劇より、布袋戯のほうが日本人には伝わりやすい。指人形の繊細な動きなどにも共感してもらえるんじゃないかな? と感じたんです」。

布袋戯には、もちろん水滸伝の演目もある。この日の演目にはなかったが、水滸伝の演目「打虎武松」で使用する虎と武松の指人形を見せてもらった。人形は顔や手の部分は木製で、胴体の部分は布で、手を入れられるように袋状になっているため「布袋戯」と呼ばれる。

虎退治をする武松。特別に少し演じていただいた

「京劇でこの立ち回りをしようとすると大変ですが、指人形であれば一人で演じられます。この小さな舞台が戦場にもなるし、宇宙にもなるんですよ」とチンホイさんは笑う。30センチほどの人形が戦ったり、踊ったり、皿まわしをして喝采を浴びる布袋戯の魅力、それは確かに無限大といえる。

水滸伝の登場人物では王英、時遷、張文遠(宋江の役人時代の部下)などの「道化役」がお気に入り。「僕は京劇では丑(チョウ)という道化役をするのでその影響もありますね。林冲や武松のようなヒーローを演じたいとは思いません。でも、ヒーローを引き立てるのも殺すのも道化の重要な役割。そういう意味で、主役を引き立てつつ、人を喰ってしまうような役を演じたいですね」。

「個人的には、三国志より水滸伝のほうが親しみやすくて好きですね。小さい頃から日本の清水次郎長とか、国定忠治、大岡越前の物語を見ていたんですが、どれも水滸伝の影響を受けているように思えます。そういう点で水滸伝は興味深いです。水滸伝などの古典をベースに、大人にも子供にも楽しんでいただける新しい演目をたくさん作って表現していきたいですね」

悟空茶荘

横浜中華街「悟空茶荘」では、チャン・チンホイさんの布袋戯を月に大体3回上演している。飲茶しながら台湾の伝統芸に親しめる機会はそうそうない。なんとも味わい深いひとときだ。ぜひとも、ここで「打虎武松」を見てみたい。

<関連リンク>
布袋人形劇団・著微(ちょび) http://www.glovepuppetry-tyobi.com/
悟空茶荘 http://goku-teahouse.com/index.php?page=shop02

文・写真/上永哲矢【哲舟】=歴史コラムニスト

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